数年前、日本はインバウンド(海外から来日する観光客)による好景気に沸いていました。けれども現在では早くも失速して陰りの様相を見せています。なぜ海外からの観光客が来なくなってしまったのか、直面している課題から再び呼び込む方法を考えてみましょう。
■インバウンド好景気が失速する原因とは
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あらためてインバウンドの好景気がピークに達していた頃を振り返ってみましょう。まず長年円高に苦しんでいた日本が2012年末のアベノミクスによって円安へとシフトし、80円台だったドル/円が120円台になりました。
2014年には中国で有効期間に何度も出入国できる「数次ビザ」が発行されるようになり、日本をはじめとする海外旅行の敷居が低くなりました。折りから中国は好景気によって富裕層だけでなく中間層まで海外旅行の需要が広がり、それが「爆買い」にもつながったのです。
ところが最近では円安が一段落し、中国の景気も次第に減速しつつあります。日本では地震や豪雨、台風などの自然災害が相次いでおり、これも海外の観光客から敬遠される原因です。中国当局で団体旅行の人数を制限する動きも出ています。
ただし爆買いブームで初来日した観光客ほど訪れたのは都心部が中心で、地方までは需要が広がっていません。団体旅行で来日した後、個人で再訪するリピーターも限られています。こうした点もインバウンドの課題と言えるでしょう。
■団体旅行から個人旅行へのシフト
以前から交流が盛んだった欧米からの観光客は既に来日に慣れているので、多くが団体ではなく単独か家族や恋人同士などの少人数で再訪しています。近年のインバウンドは団体旅行向けに大人数を受け入れることに重点が置かれていました。これからはリピーターを呼び込むためにも個人旅行に適した質の高いサービスを提案しなければいけません。
例えば団体旅行では、あらかじめ旅行会社が計画したコースをスケジュール通りに駆け足でめぐります。そのため1つの観光地に滞在する時間が短く、どうしても買い物が中心になってしまいます。個人なら何をするかは自由で、時間や場所の制約はありません。興味があることにじっくり取り組めます。
地方の自治体の中にはこうした海外からの観光客を取り込むべく、魅力的な体験型のイベントを提案するところが増えています。例えば群馬県の水上温泉では従来の観光資源である温泉に加えて、地形の利を活かしたスキーやラフティングでも海外の観光客を魅了しています。
香川県の直島では多くの芸術作品を島内に集め、風光明媚な景色と相俟って唯一無二の旅行先になっています。今後、地域が一体となってこうした独自性のある観光地を増やし、爆買いブームで初来日した観光客の再訪を促すことが望まれます。
■まだまだ対応できていないインバウンド対策
インバウンドの好景気により海外からの観光客を受け入れる体制は整いつつありますが、まだまだ対応できていない部分が数多くあります。観光庁が2016年に行った外国人旅行者に対するアンケートの結果によると、旅行中に最も困ったのは「言語の壁」です。スタッフが日本語以外話せず、メニューや案内表示が日本語だけか英語くらいしかないところも多いようです。日本人のシャイな性格も大きく影響していると考えられます。
2番目が通信設備の不足です。例えば無料の公衆無線LANは他の先進国に比べると少なく、特定の通信キャリアに加入していないと利用できない場合があります。こうした不便さの解消も重要な課題です。
■まとめ
インバウンドの好景気が長続きしなかったのは社会情勢の影響もありますが、まだまだ日本にリピートして訪れるだけの魅力が乏しいとも考えられます。従来の爆買い需要だけに頼るのではなく、魅力的な体験ができる観光スポットを増やさなければいけません。当然リピートしてもらうためには「質」も大事です。スタッフの言語教育や無線LANの整備も急がれます。