インバウンドは工夫次第で地方創生のきっかけにもなります。今回は、インバウンド誘致に成功した結果、地方創生にまで及んだ戸越銀座の事例をもとに戦略の重要さを解説します。
■インバウンド誘致に成功した戸越銀座の事例
全長約1.3kmにも及ぶ関東でも指折りの長さを誇る商店街、それが戸越銀座商店街です。名物の戸越銀座コロッケをはじめ、B級グルメも多く楽しめるスポットとして、下町グルメロケの定番スポットにもなっています。
そのような一面を持っているため、ツアー団体が観光に訪れることもしばしば。近年では訪日旅行客の数も増えてきました。
しかし、そこで出てきたのが観光客の増加による食べ歩きの増加、ひいてはゴミ問題です。戸越銀座商店街では食べ歩きできるB級グルメが多く、それらを求めて訪れる訪日観光客が増えた結果、ゴミのポイ捨ても増えてしまいました。
これに対し、戸越銀座商店街連合がとった対策は、立ち並ぶ400店舗がゴミを引き受けるよう要請。観光客がゴミを持ち歩かないで済む環境作りをする、というものでした。
ゴミを持っている客を見かけたら、「ゴミをいただきましょうか」と引き受け、各店舗で処理をします。シンプルな対策ですが、それゆえに効果てきめん。ゴミのポイ捨ては激減し、今では訪日観光客はもちろん、地元住民にとっても気持ちの良い光景が広がっています。
さらに外国人旅行者からの理解を深め、地元の魅力をより知ってもらうため、戸越銀座商店街の公式サイトを多言語化。サイトでは商店街の店からのお知らせやイベントを随時紹介しており、ほぼ毎月のように楽しいイベント情報をチェックできます。
テーマパークや自治体レベルでの公式サイト多言語化は珍しくありませんが、一商店街がやり遂げたのは珍しい事例です。さらに2017年6月にはグッドマナープロジェクトの発足を発表し、より人々が過ごしやすい戸越銀座商店街を作り上げるため取り組んでいます。
インバウンド対策として外国人旅行者だけを優遇するのではなく、商店街を訪れる全ての人のメリットを考えて実施した対策が、結果的に訪日旅行客の増加へとつながったこの事例。地方創生の一手として、参考にしたいものです。
■インバウンド誘致のために自治体が出来ること
とはいえ、すべての地方や商店街、観光スポットが戸越銀座商店街のように成功するわけではありません。インバウンド誘致には、やはり自治体の協力が必要不可欠です。
観光情報が掲載されているウェブサイトの多言語化に加え、そもそもの情報のバリエーションも重要です。店舗同士では地域や業種が偏りがちになってしまう情報を、とりまとめて公正な目で紹介する第三者として、自治体職員の腕の見せ所ではないでしょうか。
近年ではSNSで祭り情報を発信する自治体も増えています。世界的に利用者の多いSNSで発信したり、パンフレットや音声ガイドと連携したり、多言語化のフォローなども自治体主導で行えるインバウンド対策です。
宿泊施設では多言語化やグローバルデザイン化が進みつつありますが、個人経営の飲食店などはまだ認知すら危うい状況です。訪日観光旅行者を受け入れるには、周辺の飲食店の利用しやすさも重要。実際、個人経営の店で意思疎通に困ったことを訪日観光でのストレスに挙げている旅行者もいます。
外国人旅行者が多い地域から、自治体が個人経営の飲食店のメニュー多言語化を進めてみてはいかがでしょうか。
■LCCの国際線就航等を支援
2020年に4,000万人、2030年に6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標としている現在、地方の空港にも国の支援が必要です。そこで、2017年7月、全国27空港に訪日誘客支援空港を認定。その条件は自治体などが誘客や就航促進の取り組みに参加していることで、認定された空港は国から訪日客誘致のための支援を受けられるようになりました。
認定空港は静岡、仙台、熊本、茨城、北海道、高松、広島、北九州、米子、佐賀、新潟、小松、青森、徳島、鹿児島、南紀白浜、岡山、山口宇部、松山が支援の拡大対象です。長崎、那覇、大分、宮崎、花巻、福島は継続的な支援を計画しており、松本、下地島は育成対象として今後の成長が期待されています。
現在は成田空港と関西空港が訪日観光客の受け入れ数の大半を占めている状況です。これらに27の地方空港が追随できるようにするのがこの支援の目的で、CIQ施設(税関など国際間の物流や人の出入国に関する手続き)の拡大などを計画しています。
地方の空港を支援することによりLCCも活性化、国際線の就航化を進めていく訪日誘客支援空港の、今後の変貌振りに期待が高まります。