近年、訪日観光客の中で見逃せない存在となっているのが「ムスリム」と呼ばれる人たちです。ムスリムの方の訪日観光客を増やすためにはどのような対策が必要なのでしょうか。
■訪日ムスリム観光客の実情
ムスリムの方たちはまだ訪日観光客の数%に過ぎませんが、増加数は前年比の1.5倍と急速に伸びています。「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフで頭部を隠す女性もよく見かけるようになりました。
「ムスリム」とは敬虔なイスラム教徒のことで、本来は「神に帰依する者」という意味です。日本の大半の地域では馴染みが薄いかもしれませんが、世界的に見ると約4人に1人がイスラム教徒で、その数はキリスト教徒を上回りそうな勢いです。ムスリムが最も多いのは中近東ではなく東南アジアの「インドネシア」で、人口の9割がムスリムです。次いでパキスタン、インド、バングラディッシュの順になります。
インドネシアからの訪日観光客は増えており、主要国の中でも高い伸び率を示しています。それに伴い訪日ムスリム観光客も急増しているのです。ただし現状ではインドネシアからの訪日観光客でもムスリムは2割程度なので、受け入れ態勢さえ整えばさらなる増加が期待できるでしょう。特に2020年の東京オリンピックおよびパラリンピックは大きなきっかけになるはずです。
■訪日ムスリム観光客のために食の対応を
神と契約しているムスリムには厳しい戒律があり、たとえどこの国を旅行していても守らなければいけません。特に重要なのが日々の食事です。食べるのが許されているものは「ハラール」と呼ばれ、それ以外は禁止されています。今後ムスリムを呼び込むためにも彼らが食べられる「ハラール食」を提供することが求められるでしょう。
禁止されている食べ物の中で最も悩ましいのは「豚肉」です。単純に豚肉だけを取り除けば済む問題ではないからです。例えば「ラード」や「ゼラチン」は共に豚肉が原料です。多くの加工食品や調味料に添加されている「乳化剤」や「消泡剤」、「酵素」の原料にもなっています。豚肉以外でも正規の手順で処理されていないものはNGです。だから単に「肉エキス」や「動物性脂肪」と表記されている食べ物も避けた方が無難でしょう。
もう1つ問題になるのが「アルコール」です。こちらも飲酒させなければ良いわけではありません。調味酒はもちろん、みりん、味噌、醤油、酢などアルコール(または酒精)が使われている調味料はたくさんあります。最近では「日本ハラール協会」が認証した加工食品や調味料が増えているので、それらを活用すると簡単です。同協会による「ハラール調理師認定講習」も開催されています。
■訪日ムスリム観光客のために礼拝の対応を
ムスリムにとって食と同じくらい重要なのが「サラート」と呼ばれる1日5回の礼拝です。夜明け前・昼・午後・日の入り・夜に行い、日にちや場所によって微妙に時間は異なります。旅行中であれば昼と午後を1回にできますが、1日たりとも欠かせないのは変わりません。
礼拝をするのは人目につかない場所が望ましく、本来は男女別の礼拝所を設けることが必要です。さらに礼拝用のきれいなマットを用意すると親切です。専用の場所を設けられなくても「キブラ(聖地メッカにあるカアバ神殿の方角を示す標識)」を設置して礼拝の方角を分かりやすくしてあげましょう。ただし設置する際は正確さが要求されるので、必ず太陽と影の動きを確認します。できればムスリムに見てもらうのが理想です。
さらに礼拝前に手や顔、髪、足などを清める「ウドゥー」という施設や、用便の作法「イスティンジャー(排便後に左手でお尻を水洗いする行為)」を容易にする設備があると喜ばれるでしょう。
訪日ムスリム観光客の増加に伴い、空港やホテル、駅、デパートなどで礼拝堂を目にするようになりました。礼拝堂を設けてから大幅に利用者が増えたところもあります。今後、礼拝堂の数はますます増えていくでしょう。