■効率化目指す訪日外国人
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2020年東京オリンピックの来場者数は1日あたり92万人
大会期間中の総数は約1500万人を超えると予測されている。
東京都の人口が2016年現在約1300万人。
つまりオリンピック期間中は東京の人口が普段の倍以上になる計算だ。競技会場は中央区晴海に予定されている選手村を中心とした半径8キロ圏内に密集しているため、特に湾岸エリアは国内外の人々で溢れかえることになる。
■猛暑、通勤ラッシュへの対応
東京オリンピックはインフラの充実がもたらす「コンパクトさ」がウリとはいうものの、
恩恵を受けるのは選手やスタッフの移動。
都民の日常生活には多少なりとも支障が出るだろう。
ましてやオリンピック開催期間は猛暑日が続く7月下旬から8月上旬。
通勤や通学のラッシュアワー時は例年以上に揉みくちゃにされ、汗だくになることは容易に想像がつく。
東京在住であればこうした困窮は“許容範囲内”と戒めることができるが、この不快指数に慣れていない訪日外国人にとっては相当なストレスだ。
オリンピック開催に向けて、幹線道路の整備は進んでおり、鉄道各線の24時間化なども検討されているが、どこまで解消されるかは未知数。東京特有の交通事情に対する心構えを2020年までにどれだけ訪日外国人に伝えられるかは重要なポイントになるだろう。
■移動系スマホアプリを使いこなせるか
訪日外国人が東京の公共交通機関をスムーズに利用できるようになるには日本人と同様、移動系のスマホアプリを使いこなせるか否かが分岐点だ。かつては観光ガイドブックなどがその役目を担ってきたが、今やスマホひとつで完結できる時代。
地図や交通情報などの移動に関わるアプリを事前にダウンロードしておくことは、もはや必須とさえ言える。訪日外国人の間では定番のアプリがいくつかあり、例えば複雑な鉄道網を把握する乗り換え案内アプリ「Japan Trains」やオフラインでも使える地図アプリ「MAPS.ME」、読みたい日本語の文字をカメラでスキャンするとローマ字変換してくれる翻訳アプリ「Yomiwa」はその代表格だ。
■行政の取り組み
国土交通省は2016年11月30日から2017年2月28日までの期間限定で、複雑な駅や地下街、施設内でも道案内ができるスマホアプリ「ジャパンスマートナビ」の実証実験を行っている。ナビゲーションサービスは一般的にGPS(全地球測位システム)を使うが、今回の実験では屋内各所に設置した無線機器「ビーコン」や既設のWi-Fi、さらに新たに整備した屋内電子地図などを利用。行政としては「屋内外シームレスなナビゲーションの利便性を体感していただくとともに、今後の応用に向けた知見を収集したい」としている。
■バリアフリー対応
また、実験では車いすやベビーカーを使用する人向けに段差や傾斜、通路幅などを考慮した経路を示す機能や訪日外国人を意識した英語版も提供。国土交通省は「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、訪日外国人や高齢者、障害のある方々など、誰もが目的地へ円滑に移動できるための『バリアフリー・ストレスフリー社会』の実現」を目指すとしている。訪日外国人にとってはハードルもコストも高い東京の公共交通機関だが、移動系のスマホアプリの進化がオリンピックの運営に大きく関わっていることは間違いないだろう。
■次に注目されるのはシェア・マッチングサービス
一方、東京オリンピック開催までに改善が求められているのは移動系アプリにとどまらない。近年は「効率化」の需要が高まったことで、シェアサービスやマッチングサイトが増加している。なかでも配車サービスを展開しているアメリカ発のUber(ウーバー)は世界的に有名だ。今後さらに移動手段のシェアサービスが細分化すれば、東南アジアでよく見受けられるバイクタクシー(バイタク)の登場もあるかもしれない。外国人に言わせると「ピザのデリバリーやメッセンジャーバイクは浸透しているのに日本にバイタクがないのは不思議」との声も聞く。仮にバイタクサービスが確立されれば、入り組んだ都内の至近距離移動が「チョイ乗り」で可能となり、混雑が予想されるオリンピックシーズンには多大なる需要が見込めるだろう。
■オリンピックついでに食べたい、買いたい
今後の課題は続々とリリースされる便利なアプリが日本人だけでなく、訪日外国人にも使えるかどうかだ。日本国内発のマッチングサイトのなかには日本人のみを対象としたビジネスが多い。逆に利用対象者を訪日外国人にまで広げられることができれば、インバウンドに対するさらなる需要が期待できる。特にオリンピック期間中は訪日外国人の行動範囲が東京に集中するため、これまでインバウンドをけん引してきた観光関連の事業は限られた時間と場所の中での消費となる。
オリンピック期間中は「浅草や秋葉原を訪れることが観戦日の前後」になったり、「寿司やラーメンを食べることが試合会場までの移動の合間」になったりすることも大いに考えられる。
■買い物スタイルの変化
さらに近年は訪日外国人の需要がモノからコトやサービスへ移行していると言われているため、買物への消費は衰えるように思われている。しかし、それは中国人の「爆買い失速」に紐づけた安直な考えだ。彼らの消費行動は①ECサイトの拡大によって買物スタイルが変化したこと、日本製品の品定めする目が肥えてたきたこと、しいては闇ガイドによる無駄な買物がSNSの浸透によって減ったことが要因として考えられる。つまり、日本人の消費行動がAmazonやYahoo!、楽天などのネット通販に移行したことと同じように、訪日外国人でもスマホアプリで利用可能な買物サービスが増えれば、モノ消費に対する風向きも変わるはずだ。
■ちょっと手伝ってほしいを叶えるサービス
そこで注目してほしいのがそれらを担う「代行シェアサービス」。国内では「ちょっとした手助け」をコンセプトしたマッチングサイト「ANYTIMES(エニタイムズ)https://www.any-times.com/」などが候補に挙げられる。
こうしたサービスをオリンピック期間中に訪日外国人が利用することができれば、「日本人の若い女性の間で流行っている化粧品をマツモトキヨシで買いたい」や「日本のドン・キホーテでしか売っていないバラエティグッズが欲しい」といったジャパンクオリティを求める訪日外国人の消費マインドを代行したりすることも可能となる。また「スポーツ観戦時に暑さを凌ぐ東急ハンズの便利グッズを手に入れたいが、購入する時間もなく方法も知らないので代わりに入手してほしい」や「100円ショップで売っている便利な小物をお土産として購入したい、ピックアップは帰国直前の空港が理想」などといったより東京オリンピック時に考えうる具体的な依頼もシェアサービスやマッチングサイトで引き受けることができるようになれば、訪日外国人の「オリンピックついでの消費」は安泰と言えるだろう。
東京オリンピックにおける充実した「おもてなし」は訪日外国人の需要を満たすスマホアプリが担っているといっても過言ではない。