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今後テコ入れが期待される、注目のインバウンド事業

民泊制度と安宿街の改善が
訪日外国人の需要どこまで満たせるか

 

■宿泊施設の確保

 2016年に日本を訪れた外国人旅行者数が初めて年間2000万人を突破した。訪日客は13年に1000万人を超えたばかりで、ここ3年で一気に2倍に増えたことになる。ただ、政府目標の「20年に4000万人」を達成するためには、受け入れ態勢の整備が課題となっており、そのなかでも特に懸念されているのが宿泊施設の確保だ。日本政策投資銀行の試算によると、20年に4000万人の外国人旅行者が日本を訪れた場合、東京都内では延べ1880万人分の宿泊施設が不足する可能性があるという。

■注目される民泊

 その問題を解決する具体的な対策として近年注目されているのが「民泊」。特にアメリカ発のマッチングサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)https://www.airbnb.jp/」はネット上で自宅を短期で貸したい「ホスト」と呼ばれる利用者と「ゲスト」と呼ばれる宿泊客をつなげるSNSとして世界各国でユーザーを増やしている。価格や条件などの選択肢が幅広く、サイトの使い勝手も好評だ。データ集計によると登録件数は日本全国で約4万件、東京だけでも1万5000件を超えているという。ただ日本では法的な問題がまだクリアできておらず、インバウンドの受け皿となるビジネスとしてはグレーゾーンの側面がある。国や自治体では民泊を推進する規制緩和派と既得権益を守ろうとする慎重派の折り合いがつかず「民泊新法」の成立の見通しが立っていないのが現状だ。方向性が定まっていない今のままではインバウンドの需要を取りこぼす可能が極めて高い。

■人に家に泊まるメリットデメリット

中南米のキューバを訪れた際に民泊(カサ・パルティクラル)を経験したことがある。実際に民家に泊まってみると部屋の設備はもちろん、なによりもパーソナルスペースをしっかりと確保できるか否かが重要だと感じる。例えば宿泊先が家主と同居の場合、飲酒などのナイトライフを楽しんで帰宅が深夜になると気まずさを感じたり、最悪の場合玄関に鍵をかけられ、宿泊している部屋に帰れなかったりすることもある。民泊は一般市民の生活をよりリアルに肌で感じることができるが、旅先の楽しみの足かせとなる可能性もある。住民の部屋を借りる際は家主の住居とは別の、いわゆる「離れ」が理想的だ。これを東京都内にお置き換えて考えると、民泊の人気物件は「マンションの一室を又貸しした状態」が現実的と言える。ただしこれは先述の通り制度上ではグレーゾーンなので、様々なトラブルの原因になりかねない。

■民泊とは違う安宿

 そうした現代版民泊が話題となっている一方で、これから注目してほしいのが安宿(簡易宿所)の存在だ。都内では台東区の北東部にある通称“山谷(さんや)”が代表的な該当エリアとなる。一泊2000円台で利用できる宿泊所が立ち並ぶこの地区は昔から日雇い労働者が多く住んでいる街で、最寄り駅はJRや地下鉄などが乗り入れる南千住駅。成田空港やターミナル駅の上野、観光地の秋葉原や浅草へもアクセスしやすい。2000年前後からリーズナブルな価格帯と土地の利便性が外国人バックパッカーの間で評判となり、マスコミにも取り上げられた。02年のFIFAワールドカップ日韓大会の頃は特需で外国人への対応も進んだことから、山谷は「外国人向けの安宿のある地区」として知られるようになった。

■安宿の課題

 実際に訪れてみると立ち並んでいる安宿はいずれも老朽化が激しい。さらに地区全体として英語表記は決して多いとは言えず、キャリーケースを引く外国人旅行者はちらほら見かける程度。インナーナショナルな雰囲気は思ったほどない。都心の繁華街に比べて静かで落ち着いているとも言えるが、目立つのは生活保護や年金暮らしの高齢者で少々不気味な感じは否めない印象だ。コンビニやスーパーはあるものの、飲食店も数える程度。なによりローカル色が強く、外国人にとってはハードルが高いように感じる。

■宿泊不足を解消するためには

 訪日客の旅行支出額と日本の物価の高さを考えた場合、宿泊代が食やモノ、サービスへの消費を圧迫してしまうのは非常にもったいない。個人の裁量や懐事情にもよるが、日本を楽しんでもらう上で訪日外国人には日本でしか出来ない体験してもらいたいし、限られた時間と予算のなかで有意義に過ごしてほしい。そうした環境を作ることが受け入れる日本にとっては重要であるし、まだまだ足りない部分だ。ハイエンドやミドルクラスのホテル同様にエコノミークラスの安宿が訪日外国人の選択肢としてあるべきで、これは世界の観光立国の事例から見ても明らかだ。

■日本のポテンシャル

「バックパッカーの聖地」とまではいかないにしても、Wi-Fi完備や地震対策などで不安要素を取り除き、訪日外国人が必要最低限の生活を送れるような設備、しいてはリノベーションによって時代と需要に即した利便性の高い安宿街に進化すれば、これからさらに増える訪日外国人の受け皿として現実味が帯びてくる。土地柄にあったレトロな雰囲気や日本らしさは残しつつも、便利でスタイリッシュなクールジャパンを期待している外国人旅行者は多いはずだ。インバウンドに向けた安宿への投資や参入はビジネスのポテンシャルを十分秘めていると考える。