訪日外国人トラブルはSNSでの対策が最優先
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■外国人とのトラブル
訪日外国人の増加に伴い、懸念されているのが日本人とのトラブルだ。これまでは特に中国人のマナー問題などが取り沙汰されてきたが、最近では受け入れる日本側にもインバウンドを好意的に思ってはいないと感じられる事例が出てきている。そこで今回は訪日外国人がSNSで被害を報告し、拡散されて話題となった2016年のトラブルをいくつかピックアップして検討していきたい。
■大阪で起きた無抵抗のまま殴られるタイ人
一つ目の事例は5月末、大阪の道頓堀を訪れていたタイ人観光客グループのひとりが歩道で日本人男性と接触し、現金を要求されるなどのトラブルが発生した。
その男性は身体が当たったとの理由でタイ人を威嚇しながら「金を払え!」と恫喝して慰謝料を強制した上、蹴るなどの暴行を加えた。タイ人らは「彼に手を出してはいけない。我々が彼に何かをすれば、集団暴行で捕まってしまうかもしれない」と無抵抗の姿勢。
どうやらその日本人男性は外国人観光客に狙いを定め、自分からぶつかってきて、金を要求する“当たり屋”で、何度も迫ってきたという。タイ人らは交番に届け出ると、その男性は逆に「タイ人に殴られた」と主張。しかし、付近にいたタイ人グループのひとりがその一部始終を手持ちのスマートフォンで撮影していた事実を知ると、日本人男性は訴えを取り下げたという。この動画はSNSでシェアされ、タイ国内で話題となった。
投稿者は「注意してください。こういうケースでは彼とけんかせずにそのまま逃げてください」と追記。タイのネット民は暴力で仕返ししなかった観光客を賞賛。投稿には「観光地で理不尽なトラブルに巻き込まれた時は、大きな声で助けを求めれば凶悪犯はその場から直ぐにいなくなる」、「昨年、大阪を訪問した際に同じ男性に遭遇したから気をつけて!」などの協力的なコメントが寄せられた。
この“大阪カツアゲ事件”はタイのメディアでもニュースとして取り上げられたという。
■寿司屋でのわさびテロ
二つ目の事例は9月末、韓国人旅行者が大阪の寿司チェーン店『市場すし』で大量のわさびを入れられたという、いわゆる「わさびテロ」や「わさび爆弾」と呼ばれる事件。
日本のメディアでも数多く報道されたので、ご存知の方も多いのではないか。
事の発端は韓国人のツイートで「大阪の『市場すし』難波店に行ってはいけない。NAVER日本旅行の掲示板に、多くの被害報告が挙がっている」という趣旨のもの。
トラブルの当事者によると
「嫌韓テロに遭ってきました。表向きは刺し身の状態もいいので期待して、握りを一口で食べたら、吐き出すことも出来ずに涙が流れました。いったん握りから刺し身をはがしてみると、わさびが親指ぐらいの大きさで載ってました」という。
さらにその韓国人らは同店の従業員が「チョン」とバカにしながら料理を作っていたり、罰ゲームと言わんばかりのワサビを食してあまりの辛さに涙を流す様子を見て笑っていたとの報告を投稿した。
実は同店ではこのような事例は初めてではなく、以前訪れたことのある中国人も「今までで最低の店だ!私は中国人だけど、店に行ったとき、長い醜い顔の店主がぼったくろうとしてたし、寿司に大量のわさびを入れて笑ってた。私たちに“汚い中国人”と言われたことを今でも忘れない。金を無駄にするな!何の味もしない。わさびの味だけだ」と口コミサイトにコメントしている。
■メディアの過剰な反応
この事件が発覚してからネット上では『市場ずし』はもちろん、大阪観光局にも問い合わせをするユーザーが増加。
同店を運営する藤井食品は自社のホームページに日本語で謝罪文を掲載した。
会社側は「海外から来られたお客様からガリやわさびの増量の要望が非常に多いため事前確認なしにサービスとして提供したことが、わさびなどが苦手なお客様に対して不愉快な思いをさせてしまう結果となってしまいました。今後はこのようなことの無いよう、しっかりと対応させていただく所存です。また、従業員による民族差別的な発言に関してはそのような事実は確認できませんでしたが、より多くのお客様に満足していただけるよう社員教育を一層徹底してまいります」とコメントしている。
ここまでは日本のテレビでも報道している内容だが、本題はここからだ。
日本側も黙ってはいない。ネット上では「日本人として恥ずかしい」や「別皿で提供すればいいだけの話」という意見がある一方、「自作自演だ」や「わさびが多すぎるなら、わさびを取ればいいだろ。何を大騒ぎしてるんだ?」などの嫌韓コメントも噴出した。
論争がヒートアップする中、韓国側は反撃を開始。韓国人ジャーナリストの一行が、問題となった店舗をアポなしで突然乗り込み、店内の様子を無許可でネット生中継しながら騒動について繰り返し謝罪を要求した。
板前は「今回の件に関しては、至らなくて申し訳なかったと思っています」とその場で頭を下げてお詫びをし、最後は握手で別れた。動画はYouTubeにもアップされている。 なお、さすがにこのやり方には、韓国国内でも「何の資格があって謝罪要求をしているのか」などと批判する声が上がった。
■SNSでの盛り上がり
韓国人の間ではSNSや掲示板サイトのイルべ(日刊ベストスコア)に同店のレポートを投稿するとネットが盛り上がるということが広まり、確かめにいく人が相次いだ。ある韓国人は「私たちはおいしく食べた。わさびをもっとくれと言ったらおじさんが頭がツーンとするといって心配してくれたけど…。わさびテロはなかった。私はテロされなかった(笑)」とコメント。かたや別の韓国人は「市場ずしが閑古鳥が鳴いているのを見てビックリ。わさびテロに韓国人が背を向けたのを見ると怖いね」などと報告合戦が続いているという。
■SNSからの風評被害
このタイ人観光客は驚きを隠せずこの一件を自身のFacebookにアップ。タイ国内では炎上し、話題となった。当事者本人は「他の観光客も同じ被害にあわないために、SNSに投稿するのは普通のことです。今回は私の投稿によって、アゴダやホテルの皆さんがサービスを改善してもらえたらいいなと思っています。お金を貯めて日本にはじめて旅行に来る人がこんな被害にあってしまったら、日本に対する思い出は最悪なものになってしまいます」とコメントしている。
一方、日本の報道番組ではまず「富士の宿 おおはし」の社長へのインタビューを紹介。「インターネットの怖さというものを初めて身に染みて感じました。もう風評被害そのひとことだと思います」とコメント。さらに番組司会者は「宿には悪意はない、落ち度もない被害者。運営サイトに悪意はないが、写真を間違えたという落ち度がある」とし、番組コメンテーターはこのトラブルがタイ国内で話題なっていることを知った上で「予約した事実と異なるようであれば、宿泊サイドに部屋を代えるように努力をしてほしいと言えばいい。現場で解決している話なのに、感情的になっていきなりSNSにアップすることは場合によっては責任が問われる。勘違いは危ないし、下手すると日本全体のイメージダウン。安易にFacebookへ投稿すると大変なことになる」といずれも宿泊施設のビジネスにおける風評被害を懸念しつつ、SNSへの投稿を問題視していた。ちなみに、日本の番組サイドはタイ人が最初の投稿から2時間近く交渉し、和室の部屋に変えてもらえた事実も実際は全てタイムラインに残していることを報道してはいない。
■共通するアジア人のSNS利用
これら三つの事例に共通していることは「被害者がみなアジア人であること」と「話題となるきっかけがSNSであること」だ。
インバウンドを牽引しているのはアジア人であり、その増加が訪日外国人のトラブル件数に比例しているとは言える。しかし、個人差はあるものの日本には韓国や中国、東南アジアを蔑視している人がいるのもまた事実。仮に①の事例が強面で背の高いロシア人だったら勝てないと思って手を出さないだろうし、②の事例が誰もが知っているアメリカ人だったら批判を浴びると予想できるだろうし、③の事例が老夫婦のフランス人だったら格安シェアルームの予約は手違いかもしれないと見当がつくだろう。いずれにせよ、欧米人だったらトラブルは起きていなかったかもしれない。
■日本ならではの郷に入れば郷に従え
訪日外国人には“郷に入れば郷に従え”の感覚が乏しいとも感じる。実際に外国人観光客の入店を「断っている」という飲食店に話を伺うと、荷物置きのカゴにゴミを入れられる、空気を読まずに居座ってトランプなどのゲームをする、お酒しかオーダーしないなどの不満を聞く。なにより訪日外国人を受け入れることで日本人が入れないこと、しいては常連客がお店から離れてしまうことを最も心配している。昨今話題となっているヌーハラ(ヌードルハラスメント)は日本人がラーメンや蕎麦などをすする時の「ズズズッ」という音に対して外国人が不快な思いをすることを指すが、これに対して「日本の食文化に対して外国人にとやかく言われる筋合いはない。おもてなしで、どんどん音をたてよう」と訴える人もいれば、「食文化なんだから、それがいやなら来なきゃいいし、食べなきゃいい」と保守的で排他的な意見もある。今後はさらに訪日外国人を受け入れるか否かという「おもてなし」の二極化が進むだろう。
■SNSの波及力
日本ではまだまだSNSの影響力を軽視している。トラブルが発生して謝罪する場合、自社ホームページに日本語で掲載しても一方的で訪日外国人に届いているとは思えず、あまり効果は期待できない。訪日外国人のトラブルがSNSから炎上したものならば、SNSで鎮火を促すのが最優先。SNSでは情報が共有されるスピードがリアルタイムで段違いに早い。誤解があれば、教えてあげればいいだけの話だ。ある中国人は日本での訪日外国人に関するトラブルのニュースを聞いてもあまり驚かないという。その理由は「中国人は日本人に対して何か言える立場にないと思う。中国人のほうがひどいから。どの国にも良い人もいれば悪い人もいる。不快な思いをさせるのは幼稚なことだが、だからといってその国自体を悪くいうのは良くない」という。“日本人は真摯”というイメージが世界的にまかり通っている分、そのギャップに対する反動が大きい。当たり前のことだが、カツアゲをしてはいけないし、食べ物を粗末にして意地悪をしてはいけないし、困っている人がいれば助けてあげるのが優しさだ。これまで培ってきた日本人の誠実さは、これまで以上に世界に早く伝わる時代なのだ。